湛山、後輩への手紙


今回見つかった石橋湛山が旧制甲府中学の生徒らにあてた手紙  石橋湛山元首相

◆志を立てたなら忍耐強く努力せよ―
 旧制甲府中学 生徒一同あて 日野の元校長遺族宅に

 元首相で、言論人としても活躍した石橋湛山(1884~1973)が終戦直後、母校の旧制甲府中学(現・甲府第一高校)の後輩らに送った手紙が日野市内で見つかった。湛山が座右の銘としていた札幌農学校の初代教頭、クラーク博士の「少年よ、大志を抱け」を取り上げ、「志を立てたなら忍耐強く努力せよ」などと激励、熱い思いが伝わってくる。21日には湛山の記念館でもある「山梨平和ミュージアム」(甲府市)で手紙に関する講演会が開かれた。

 手紙は昨秋、日野市の元校長の遺族宅で見つかった。甲府第一高校は今年、創立130周年にあたり、記念事業の一環として卒業生らに過去の資料を募ったところ、遺族から情報が寄せられ、同校に寄贈された。

 手紙は生徒一同あてで、1948年1月、毛筆で縦約20センチ、横約150センチの巻紙に書かれた。前年の夏、母校に書を贈呈しており、当時の校長か生徒代表が出した礼状への返事とみられるという。

 贈った書は、クラーク博士の有名な言葉「Boys be Ambitious!」。手紙は「志を立てたなら忍耐強く努力せよ 石の上にも三年と云(い)う訓辞(示)の含まれていることを見落(と)してはなりません」と強調。「私も老年ながら諸君に負けず勉強するつもりです」と結んでいる。

 湛山が在学中に薫陶を受けた第7代校長の大島正健(まさ・たけ)は、札幌農学校(現・北海道大学)の1期生。校長在任中、クラーク博士の教えを湛山らに伝え、「Boys……」は現在、甲府一高の校是になっている。湛山は手紙で、これを座右の銘にしていることにも触れている。

 手紙をしたためたのは、ちょうど連合国軍総司令部(GHQ)から公職追放されていた時期。
 湛山は戦前から自由主義の立場を貫いた。山梨平和ミュージアム理事長で、湛山研究者の浅川保さん(64)によると、軍国主義に反対した湛山は当初、GHQ側から好感を持たれていた。しかし吉田内閣の蔵相時代に積極的な財政政策を進め、日本が負担していた駐留経費の軽減を主張すると不興を買い、47年5月、衆院議員初当選の直後、公職を追われた。
 湛山は51年に追放を解除され、5年後、首相に就いた。

 甲府一高は記念事業で、先月から校内に卒業生ら関係者の業績を顕彰するコーナーを設け、手紙もパネル展示中。

 21日の講演会で講師を務めた浅川さんは「山梨で過ごした青少年期の初心を貫こうとした。植民地放棄を唱え、占領下にあっても米国に真っ向から主張した湛山から学べるものは多い」と語った。(岩城興、福山亜希)

【2010年11月22日 asahi.com > マイタウン > 東京】